2021.8.18

2021.8.20

時計のオーバーホールの時期は?適正なタイミングってあるの?時計修理技能士1級の技術者がお答えします。

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知識

オーバーホールとは?

オーバーホールとは腕時計を部品レベルまで分解し、洗浄した後再度組み立て、調整を行い、新品時にできる限り近い状態に戻す作業のことを指します。

時計のオーバーホール、洗浄機 内部のパーツに摩耗や破損が見られた場合はパーツの交換も行い、しっかり動く状態にしていきます。 自動巻きの時計ですと200個以上の部品で構成されており、それを一つ一つ分解・組み立てを行うことになります。非常に精密な技術が必要な作業になるので技術力のある職人によって全て手作業で組み立てを行う必要があります。

オーバーホールの時期は基本的には何年に1度なのか?

オーバーホールを定期的に行っていくことで時計の状態を良好に保っていくことができますが、ではどのくらいの頻度でオーバーホールを行うのが良いのでしょうか? 実はこの疑問に関してはメーカーや修理店、雑誌等も含めて様々な立場から様々な意見が飛び交う状態となっており、これといった分かりやすい指標もなく、正解もないのです。メーカーやモデルによってもオーバーホールの推奨年数はバラバラですので統一されているわけではありません。 理由としては、ユーザーそれぞれの腕時計の使い方や使用頻度、使用環境等によってオーバーホールのタイミングが変わってしまうからです。単純に比較しても365日毎日腕時計を着ける人と週末のみ動かして使用する人でもオーバーホールのタイミングは違ってきます。 ですのであくまでも一般的な目安としての指標にはなりますが、機械式の腕時計は3~4年、クォーツの腕時計で4~5年ごとのメンテナンスが多く言われているサイクルになります。(OMEGAのコーアクシャルムーブメントのような特殊な機構は除きます)

どうして何年に1度なのか?

これは車の車検に置き換えてイメージしていただくと分かり易いかと思います。

車の車検は公道を走る車を所有している人に義務付けられた継続検査です。車が安全に走るための検査になり、定期的に行わないと車の燃費も落ちていきますし、最悪故障に繋がる恐れがあります。腕時計も同じで年数が経過するごとに内部の潤滑油が劣化していきますので当然時計の精度も落ちていくことになります。常に安定した精度を保ちながら動かしていくには定期的な検査=オーバーホールが必要なのです。

腕時計は車と違い法律で義務化されているわけではないので、ユーザーの方それぞれに意識をしていただき、定期的にオーバーホールを行っていく必要があります。

オーバーホールをしないと何年程度で内部はどんな状態になるのか?

オーバーホールをしないまま何年も時計を使用してしまうと内部に注してある潤滑油が汚れてしまい、時計内部の歯車類の動きが悪くなってしまいます。 一般的には毎日動かした状態ですと約3年ほどで油の劣化が始まり、そこから年数が経過するごとに油の量や質がどんどん低下していきます。 劣化した油は粘度が高くなりますので次第に汚れ等が混ざっていきます。そうした汚れが原因で歯車の軸に負荷がかかり、摩耗してしまい動きが悪くなるのです。年数が経過すると遅れの症状が出やすくなると言われているのはこのためです。

時計の歯車のホゾの摩耗

上記の画像(左が正常な歯車の状態、右側が摩耗した状態)のように摩耗してしまった状態ですと歯車が正確な動きをしてくれず、時計の精度に悪影響が出てしまいます。最悪の場合、歯車が破損してしまい時計が止まってしまうこともあります。

また、リューズやプッシュボタンといった外装部分も年数を追うごとに汚れや腐食が進行していきます。腐食が進んでサビが発生する段階まで放置してしまうとオーバーホールに加えてそうした外装パーツも交換が必要になり、高額なってしまうこともあります。

潤滑油だけではくパッキンも劣化や硬化してしまう。

また、内部の歯車類だけでなくパッキン(水分や湿気、ホコリ等の侵入を防ぐためのゴム製のパーツ)も年数を追うごとに劣化してしまいます。

時計のパッキンの劣化や硬化

パッキンは外装である裏ブタやリューズ、プッシュボタンとケースの間に組まれていることが多く、図のように劣化して伸びたり硬化してしまうと防水性そのものが低下してしまい内部に湿気や水分が入りやすくなってしまいます。 オーバーホールの際にはこうしたパッキンも新しいものに交換をして防水性能を維持していくことになりますので、そういった観点からも定期的なオーバーホールの必要性というのがご理解いただけるかと思います。

クォーツ時計のオーバーホールも必要なのか?

クォーツ時計は自動巻きの時計と比べるとパーツの点数も少ないですし、電池駆動で動いているのでオーバーホールは必要ないと思われている方も少なくありません。 ですが、クォーツ時計でも歯車は使用していますし、パーツごとの接触部分には自動巻きの時計と同様に潤滑油が注してあります。クォーツ時計は電子制御により最小限の力で時計を動かす構造になっていますから油の劣化が進行してしまうと遅れの症状が出たり、止まって動かなくなってしまうケースも多いです。 自動巻きの時計よりは年数のスパンは長く見ておいて大丈夫ですが、それでも5年おきくらいを目安にオーバーホールを行っていくことをお勧めします。

長年動かしていなかった時計を使うときはオーバーホールが必要なのか?

クォーツ時計でも自動巻き時計でも長期間動かしていない場合は使い始める前にオーバーホールを行った方が良いです。 内部に注してある潤滑油は年数とともに経年劣化しますし、酸化もしてしまいます。油が固まってしまい動かなくなっているケースも多いです。仮に動く場合だったとしても大丈夫だろうと思ってそのまま使用してしまうと歯車に思わぬ負荷を与えてしまい、破損させてしまう可能性もあります。

5年以上一度も使用せずに放置されていた時計を使い始める場合はオーバーホールはほぼ必須になると思っておいた方が良いかもしれません。

また、形見のお品やアンティーク、譲り受けた時計など前回のオーバーホールの履歴が不明だという場合も時計の状態によってはオーバーホールが必要になってくるかもしれませんので使用する前に専門店等でチェックしてもらうようにしましょう。

止まってからオーバーホールに出せば良いのでは?

時計が動かなくなってからオーバーホールに出せば良いと思っている方は意外と多いのではないでしょうか? ある意味最適な時期であると言えるかもしれませんが、これはお勧めできません。 動かなくなってしまったということは内部に確実に異常が発生しているということであり、部品が破損している可能性も高くなるからです。 部品が破損してしまえば当然交換が必要になります。基本的に部品代はオーバーホールと別料金になっていることがほとんどで高級ブランドになればなるほどパーツ1個の値段も高額になります。 特殊モデルや年代物のオールドモデルですとそもそもパーツが手に入らず修理が不可能になってしまうケースもあります。 そういった意味でも止まってからではなく定期的なオーバーホールがお勧めです。

まとめ

以上、オーバーホールについての説明をさせていただきましたが、腕時計も機械である以上は定期的なメンテナンスが必須であるということがご理解いただけたかと思います。 定期的にオーバーホールを行うことで時計を常に安定した状態で維持できますし、コストも抑えることができます。仮に調子が良いままだったとしても年数を決めてオーバーホールしていくことをお勧めします。

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