アナログの時計と言ったら、『針の位置で時刻を読む』のは当然のことです。
では、その針はどのように付け外しされているか、興味を持った方もいるかと思いますが、
そんな腕時計が大好きなあなたへ、こんな工具で、どんな手順で作業をされているのかご紹介します!
Contents
どんな工具が必要なのか?
今回は一般的に使用される工具を紹介しつつ使用用途もお伝えします。
剣抜き、剣押さえ、ピンセット、この3つは必須です!
ほぼ説明不要ですが、
左から、針を抜く、針を差し込む、針(部品類)をつまむ工具です。
機械台というムーブメントを置く台もあると尚良いです。
また、まずは裏の蓋を外さないことには始まりませんので、
作業前に下記リンクで裏蓋の種類別の開閉方法を。
時計修理技能士が教える裏蓋の開け方!素人でも開けられる?
裏蓋が開けられたらやっとそこからスタートです!
裏蓋が開いたらまずはどうすればよいのか?
裏蓋が開いただけでは文字盤側まではアクセスできません。
理由はりゅうず・巻き芯が外せていないからです!
このまま無理やりムーブメントを取り出そうとすると、
巻き芯が折れてしまい、針の付け外しどころではなくなってしまいます・・・。
まず始めにりゅうず・巻き芯を抜けないようにするパーツ(オシドリ)を探し、
そのパーツのロックを外してからリューズ・巻き芯を引き抜きます。
オシドリ(リューズ・巻き芯を抜けないようにするパーツ)のこの部分(赤丸の部分)を
ピンセットで軽く押しながらりゅうずを引くと、
巻き芯ごと抜けるようになります。巻き芯を折らないように・・・
ムーブメントによって場所が全然違うため、作業前にしっかりとチェックしてください。
ものによっては小さい穴が開いていてその場所に薄く矢印が書いてあったりしますので、
目印を探してからがオススメです。
確認する方法として、リューズを押し引きして動く部分から追って探すということもできますが、
繊細なパーツの集まりでもあるムーブメントを手あたり次第に押してみるということは避けて下さい。
リューズ・巻き芯を抜いた後は?
リューズを引き抜いた状態でケースごと裏返すと、ムーブメントがぼろっと出てきます。
出てこない場合は、中枠(ここでは緑色のパーツ)に抑えられていたり、クロノグラフ等のボタンに
引っかかっている場合があるので、パーツを先に外したり、
上手くボタンを避けながら取り出してください。
ここで使っている工具(機械台)置くとと後の作業が安全かつ楽にできます。
ここでいくつか注意があります。
出てこないからと無理やり取り出そうとして、ムーブメントだけ持ち上げようとすると
文字盤が外れてしまう場合があります。
そうなってしまうと文字盤と針が接触して傷が入ってしまう事がありますので注意してください。
不意に触って針が外れて曲がったり、折れたり、紛失したり・・・
その他に、最近多いのが、文字盤より裏蓋のサイズが小さい場合があります。
そういった場合は、ガラスを外さないと取り出せない構造となっており、
こういったタイプを個人で作業するのは非常に難しかったり、
ガラスを割るリスクからオススメはしません。(細かいことは長くなるので割愛します…)
文字盤が上を向くようにしてひっくり返してケースを持ち上げれば、
やっと文字盤と針にアクセスできるようになります。
補足ですが、オーバーホールするのであればそのままで良いのですが、
針だけを付け外しをする場合はこの段階で、リューズ・巻き芯を差し込んでおいてください。
取り付けの際にリューズ操作が必須となるためです。
針はどうやって外すの?
まず始めに、『針ってそもそもどう付いているの?』と思う方も多いと思いますが至ってシンプルで、
輪列(動力から針まで力を伝える歯車の部分)からガラス側(表側)まで歯車の軸が伸びでいて、
そこへ針がはまっているだけと、意外と構造はシンプルです。
針を外す前に確認してもらいたいのが、元々どのように針が付いていたか、どれくらいの高さの間隔で針が付いていたかをしっかりと覚えておく必要があり、写真を撮っておくのをお勧めします。
なぜなら、針を付けた時に針高(針の高さ)がシビアすぎると、針が文字盤やガラスの内側を擦ったり、針同士がぶつかり、時計として使えない状態になってしまうからです。
針を外す工具(剣抜き)もその歯車の軸から外しやすいように爪に似た形をしています。
ただ、この工具を何の保護もなしに使ってしまうと、てこの原理で外す以上、
文字盤に傷をつけてしまうため下記のように保護する必要があります。
腕時計等の細かいパーツを小分けにして保管できるような小さな袋で問題なく使えます。
厚みがあって作業がやりにくい場合は、袋を破って1枚分にしておくと多少やりやすくなります。
前置きが長くなりましたが、外す作業の説明です
外す際に針同士の接触での傷が気になる場合はそれぞれの針ができるだけ重ならないようにずらしてください。これが前の項目でリューズ・巻き芯を戻した理由です。
(通常よりも折れやすい状態なので気を付けて・・・)
秒針の動かし方は、リューズを引いてなければ、動きは規制されていないので軽く触れるだけで動かせます。
工具を針の付け根の一番下に滑り込ませ、てこの原理で持ち上げるように動かします。
そこまで力を入れずとも下から順に針が外れる感覚が伝わってくるかと思います。
ここで気を付けておきたいことが、文字盤にカレンダーの窓が付いていたり、クロノグラフやその他機能の小針が、付いているものはその場所に当たらないように気を付けましょう。
また、針も1本ずつ抜いたりができないです。
外した針も曲げたり、折ったりしないように慎重に取り扱い、不用意に触らないように保管します。
夜光塗料のついているものは特に注意が必要で、塗料がはがれて穴が開いたりします・・・。
針はどうやって付けるの?
通常、針は上から秒針、分針(長針)、時針(短針)の順番に付いています。
針を付ける順番は文字盤から一番近い順なので、時針、分針、秒針の順です。(順番は忘れずに!)
構造上、順番通りじゃないと針を全部取り付けられませんので注意してください。
肝心の針の取り付け方ですが、
針の表裏を間違えないように時針から中央の歯車の軸が出ているところへのせます。
傾いていたり、しっかり歯車の軸に乗っていないまま押し込むと余計な力が加わり、ムーブメント、
輪列(歯車の並んでいるところ)、地板(ムーブメントの板の部分)が破損します。
針の穴の大きさは【時針 > 分針 > 秒針】となっています。
また、剣押さえ先端にもそれぞれ穴が開いており、対応した大きさのものを使用してください。
大きすぎ、小さすぎはトラブルの原因となります。
針を載せたら剣押さえで軽く留まる程度の力で押してください。
そうすると、簡単に外せるけどリューズ操作で針を回せる状態になります。
ちなみに針の付く高さの目安の位置は、それぞれの歯車の軸の先端が針の中心とぴったり合っている状態が、望ましいです。
ここで、針を取り付ける際に気に掛けないといけないことがたくさんあります!
まずは時針ですが、カレンダー付のものに関しては、『0時』のタイミングで日付が切り替わるように針の位置を合わせないといけないので、日付の変わるタイミングには気を付けましょう。
カレンダーのないものも12時に針が重なるように取り付ける必要があります。
ここから先は針を1本軽く付けては針を回して確認、大丈夫であればしっかりと押し込み次の針へ・・・の繰り返しです。
もしここで日付の切り替わるタイミングが気になるようであれば、針を簡単に外せるくらいに仮付けしていると思うのでピンセットや剣押さえ等を使い、針の位置を微調整してください。
文字盤や針の傷には注意がしながら軽い力針の側面をそっと押すような感じで作業しましょう。
また、そのあとも針を回して日付が切り替わるところまで進めてからカレンダーの切り替わりに対して針の位置を確認・修正をしてください。
また、針が文字盤に対して平行に取り付けできているかも色々な角度、時刻で確認してください。
こちらの確認も針を取り付ける度に確認をすることで、針同士の接触を未然に防げます。
ここで気になるかもしれませんが、構造上、歯車同士の隙間(バックラッシュ)等により、
日付変更のタイミングをぴったり合わせることはほぼできないと思ってください。
切り替わるタイミングが±10分以内であれば上出来だと思います。
こちらもムーブメントによって大きな差があるため、元の切り替わるタイミングも、
ちゃんと確認しておいてください。
クォーツ時計の秒針に関しても同じで、インデックス(文字盤の円周に描かれている刻み)とぴったり合わないことも多々ありますが、こちらも異常ではなくバックラッシュによるズレなのでなかなか修正は難しいです。ある部分ではあっているが、ある部分では合わないなどのケースがあります。
余談ですが、こういった細かい部分にも気を使って、インデックスの上をぴったりに動くもの、
切り替わるように作られた時計もありますが、遥かに少ないですし高額時計ばかりなのでこの記事では紹介しません。
針の取り付け方も人によって異なり、すべての針を12時位置に合わせてつける方もいますし、
6時に合わせて取り付ける作業をする方もいます。
筆者自身は針への傷が怖いので、可能な限り針同士の接触をしない6時にして作業しています。
針をピンセットで挟む時も針の表面に触れないように気を付けたり気を使っています。
針の仕様によっては、のちの説明するロディコという、
ねり消しのようなものにくっ付けて作業をすることもあります。
動作の確認、ケーシング
ケースに戻す前に、どのタイミングでも針が文字盤や針同士で接触していないか、
あらゆる時刻で確認します。もちろん、カレンダーの切り替わりのタイミングも。
それをせずにケースに戻すと、手直ししたいときに非常に手間が掛かるので、
ここでしっかり調整しておきましょう。
ムーブメントをケースへ戻す(ケーシング)前に、ここでも確認する箇所があります。
ガラスの内側に埃が付いていないか、文字盤上に埃は残っていないか。
この埃が厄介で、文字盤上、ガラス内にあるとかなり目立ってしまい、
時刻を読むたびに埃が気になる・・・など起こり得ますので、
ちり吹き(ブロアー)やロディコ(ねり消しみたいなもの)などのゴミを飛ばすか取り除くようにしてください。
もし、指紋など汚れがついてしまったらガラスの内側を眼鏡拭きなどの柔らかい布で拭いてから、
ちり吹きで埃を飛ばすとよいです。
左:ちり吹き 右:ロディコ
ロディコは油分を含んでいるため、使用箇所によっては油じみが残る可能性があります。
ゴミだけに付けるようにに気を付けてください。
全てのチェックが終わったら、再びリューズ・巻き芯を外しケースに戻します。
このタイプの機械台も持っているとケースから出た状態の巻き芯外しも楽にできます。
機械台の上に文字盤を上にして置き、そのままケースをかぶせ、
機械台をケース押さえながらひっくり返すことで、ムーブメントに触れずにケースに収められます。
この方法が一番簡単だと思います。
クロノグラフ等のボタンがある場合は、ムーブメントを取り出すとき同様に、
その部分を避けながらケースに入れてください。
最後に裏蓋を締めて、時計の外装を拭き上げて今回の作業は終了です。
最後に
修理作業はこの方法じゃないといけないということはなく、
技術者によって手順や方法は若干変わってくるものです。
経験則や工夫から如何に低リスクに効率良く作業できるかちゃんと考えられています。
作業の基本は、組み込んだらチェック、の繰り返しです。
確認をせず次の作業に移ると、不備のあった個所までまた分解組み立て・・・なんてことが起こり、
その修正までにかなりの時間を費やしてしまいます。
それらを考えながら作業するのも楽しさの一つなので、
皆さんも手順を考えながら針の抜き差しを試してみてください!
ああ、それと、作業するときは指の油が付いたり指紋が付かないように、
指サックを忘れないでくださいね!(今回はしていなかったけど・・・苦笑)